声無キ慟哭、ソシテ歓喜

夕闇に蠢く影、六つ七つ。
真田の屋敷に程近いこの森で、微かに刃の音が響く。

たった一人の忍によって、次々とヒトがモノに変えられてゆくその様を。
大木の枝にとまった鴉が一羽、静かに見下ろしていた。

最後の一人が、血潮を撒き散らして地に沈む。
忍はゆっくりと、得物を構えた両手を下ろした。

もう動かないこのモノ達も、忍と同じ、闇に生きる同業者。

日没後の薄暗い世界の中で、血溜まりの赤と、忍の髪の橙だけが、鮮やかに目を引いた。

忍は手練だった。
返り血を浴びるなど、無様な真似はしていない。

「あんたら、本気で旦那を殺せると思って訳?」

嘲るように吐き捨てた。

刺客達は答えない。
それもそのはず、自分が息の根を止めたのだから。

口調とは裏腹に、忍の目には光が無かった。



ああ、殺してしまった。
また、人の命を掻き消した。



見えない命の重さが、着実に背中にのし掛かる。

戦国乱世。
生きるか死ぬかの弱肉強食。
殺らなければ、こちらが殺られる。
そんな事は、わかっている。



それでも。



殺したくない(では大人しく殺されてやるのか)

殺さなければ(嫌だと叫ぶ心に嘘をつけるのか)



昔の、感情のない、人形のようだった自分なら。
躊躇いも、罪悪感も、自己嫌悪も無かったろうにと。
そんな意味もないことを、薄ぼんやりと考えて。



でも。


「知ってる?旦那。俺に心を与えたのは…」


貴方だから。


抜け殻の自分に、魂をくれたのは、貴方だから。


自分を『人間』にしてくれたのは、


貴方だから。


だから、貴方の為に刃を振るう。
貴方の為に人を殺す。


「俺は、旦那に救われたんだよ?」

貴方を守りたいから。
救ってくれた貴方を、守りたいから。

貴方に出会えて、貴方に仕える事が出来て、本当に本当に。

「俺は幸せだよ…」

ここにはいない主に、この言葉が伝わるはずもないけれど。



殺したくない。
だけど、殺す。



どうしようも無く苦しい。
けれど、言いようの無いくらい幸せ。


矛盾した思考を抱えて。
泣きでもすれば、少しは楽になれるのだろうけど。

出来ないのは、感情を表に出さない、忍の性故か。



東の山の端から、月が顔を出す。

皓々と、冷たい光が屍を照らすのを見ていたくなくて、忍は踵を返す。



泣けない忍の代わりに、

かぁ、と一声、鴉が鳴いた。


置手紙

さて、初めてちゃんとしたssを載せた気がします。
いやいや、私のssのヘボさ加減は変わっていませんけども;

佐助は、人を殺すのは大嫌いだといいです。
でも、佐助にとって幸村が世界の全てだから、幸村を守る事は至上の喜びなんです。
その矛盾が佐助の魅力。
苦しみと喜びのはざまで存分にくるしめよ、佐助(酷)
幸村は、戦う為に生まれてきた人。
佐助は、本気で生まれる時代を間違えたと思ってる人。
佐助は幸村をおぞましく思いつつ、どうしようもなく愛しいといい。

佐助と鴉の組み合わせって、いいですよね!